郡山市立美術館に行ってきた。

郡山のうすいデパートにいく用事があったので、ついでに郡山市立美術館で開催中の「みんなのミュシャ ミュシャからマンガへ −線の魔術」展に行ってきた。ミュシャというと、あの縦長で、なんとなくギリシャ風というのかローマ風というか古代の女神像の様な服装を纏った女性が、独特な字体と枠組みの中に描かれている絵が真っ先に浮かぶ。おそらくそれが彼のシンボリックな作品なんだろうな、というぐらいの認識しかなかった。そして、それに僕は苦手な印象を持っていた。なぜかと言えば、小さい頃気まぐれで買ったタロットカードの絵柄に出てくる人たちと似た様な服を着ていて、そのカードの絵柄が怖かったからという、全くミュシャは何も悪くない理由でしかないのだが、それを抜きにしても、どちらかといえばフェミニンな雰囲気が強いので、その辺りの近寄りがたさというものもあったかもしれない。なんで苦手なのか自分ではっきりさせたいという気持ちもあって、見に行くことにした。12月12日(土)から始まった展示会で、始まったばかりの観覧となった。

 

結論。ミュシャはすごい。こんなにもミュシャが与えた影響の中に僕(たち)は生きていたとは。展示としては、彼の幼少の頃の作品から、よく見かけるようなポスター、最後には彼の影響を受けた画家や日本の漫画家の作品が並んでいて、かなり見応えがある。約1時間半かけて一周した。

 

広告ポスターを芸術の域にまで高めた、というような評価が紹介されていて、「あっ」と思った。僕はミュシャを単純に画家の系譜の上にいる人だと思っていたし、それはその作品を見てそう思っていたんだけど、まずそこにちょっとした勘違いがあることに気がついた。画家というよりはデザイナーなのだ。ただ、その垣根を突破しようとして、実際にそれを成し遂げたのがミュシャという人なのだろう。

 

今回の展示の中で特にふたつ気に入ったのがあった。ひとつは、「ミュシャ自画像、パリのアトリエにて」もうひとつは「モナコ モンテカルロ」。二つ目の方は展示の告知用チラシにも使われている目玉の一つだろうか。まず一つ目の方。これはデザインではなく、素描の習作のための題材ということだと思うが、小さい画面の中に彼がアトリエで仕事にとりかかる様子を描いたものである。グレースケールで描かれているだけだけれど、黒の濃淡と線と太さで室内の遠近感がはっきりと示されている。暖かさを感じるとても素敵な絵だった。あまり画面をこすったりせず、影の書き分けは線によってされていたような印象。このあたり、「線」というミュシャの枕詞に繋がるものがあるのだろうか。二つ目の作品は、鉄道旅行PRのための広告様ポスターだったそうだ。この作品についてはキャプションも詳しくついていて、曰く、「旅行の期待感」を表現したそうだ。旅行というともっと安易なモチーフ、例えば観光地や旅行する人たちを描くのは無難だけれど、描かれたのは期待に静かに胸躍らせる乙女。そんなにも一律でない「感情」を描こうとするその姿勢が、やはりその作品を芸術と言わしめるものになるのかもしれない。この絵を見る頃には僕も。ミュシャ好きだな〜、に変わっていた。

 

展示は次第に、ミュシャが構成に残した影響というテーマに変わって行く。日本でも明治には紹介されており、そのまんまミュシャぽい図柄に彼のあまりに大きいインパクトを感じさせる。よく知っている与謝野晶子の「みだれ髪」の装丁なども彼の影響がみられるモチーフだそうだ。

 

さらには漫画(特に少女漫画)。僕がいかにも少女漫画的だと思い描くイメージやモチーフのほとんどはそっくりそのまま、ミュシャ風のものだったということに気づかされる。僕のミュシャに対する苦手意識も、それは少女漫画的な表現に対する苦手意識がそのまま影響していたのかもしれない。

 

ある漫画の絵を見た時にふと考えたことがあった。続く話の一コマだと思うが、女性が花に囲まれてるその絵を見た時、花がすごくしょんぼりして見えたのだ。ミュシャの作品では花に囲まれた女性のモチーフなんて嫌と言うほど見ていたが、そこでは感じなかったものだったから、この違いはなんだろうと不思議に思った。一旦順路を逆走して似たモチーフの絵を改めて見て考えたのは、ミュシャは絵の中の要素のすべてを、明瞭な輪郭線でもって、等しい存在感で描いているのではないだろうか、ということだ。「自画像」の中で表現した線による遠近法は、ポスターの中では逆の形で再現され、描く要素を前に持ってくることも、後ろに持っていくこともできた。ちょうど、現代の僕たちが画像編集ソフトでイラストの重なりを調整するように…かどうかはわからないけど、そういう「層で見る」考え方をすでに持っていたんだなということを考えた。

 

この展示会のことは頻繁に流れていたラジオCMで知ったのだけれど、そのBGMが、なんというか松任谷由実の「春よこい」の偽物みたいな曲でそれがちょっとツボです。会期は3月まで。混雑というほどの人数でもなく、とてもよかった。