斎藤清美術館「大コレクション展」4

会は無事終了し、最後まで観覧することができました。

以下、過去と同様の感想文となります。

 

斎藤清美術館では、開館25周年を記念した「大コレクション展」を、2022年から1年をかけておこなっています。その感想の4回目です。

 

構成は以下のとおり。

 

  • 展示タイトル名
  • 印象的だった作品と制作年
  • 思ったこと

 

第3期のテーマ【会津人にして、異郷人】

(8)会津の冬 イメージの変化が語るもの

会津の冬 中野 1970頃 墨絵

会津の冬 早春(柳津町) 1985  墨絵

会津の冬 (65) 宮下 1986

会津の冬 (88)三島町 間方 1991

会津の冬 (94)八坂町 1992

 

会津の冬シリーズに絞った展示。壮観とも言うような雪景色の作品の数々、その並びを見るだけでも、清のこのテーマへの思い入れを感じるような気がする。有名どころが並び、墨絵ゾーンへ。その中でも技法上の試行錯誤が見て取れる。

 

会津の冬 中野】は重い墨に沈んでいくようなグラデーションが特徴的で、好きかと言われると「?」なんだけれど、その黒さは、遠くで耳鳴りがするような静けさを醸し出しているような気がした。冬の暗さはこういうものだよなと。

 

会津の冬 早春(柳津町)】は対照的に霞のような白ベースの作品で、見ていて目に優しい。白と言ったが、紙の色なのか、ややベージュの色味。そして実はそのベージュっぽい色味こそが、ちょっと垢抜けた印象をこの作品に与えているかもしれない。他の作品と比較してみると、そんなことを思う。【会津の冬 (65) 宮下】【会津の冬 (88)三島町 間方】はまさにそんな感じで、ここでは本来、黒やグレーであるところに、黄味がかったグレーの色を使っている。そして、部分的に穏やかな黒。このバランスが、なんとなくよい雰囲気を出しているように思う。和紙の色を活かすということについて、以前の展示かなにかで説明がなされていたと思うが覚えていないので、また知りたい。この黄味、黄土色の存在感は、墨絵を通して「インクと地」の極端な制約に身を置いたからこそ、発見された効果と言うと言い過ぎだろうか。もちろん、版画以前にそういった作例があるかもしれないし、調べが必要なことではある。

 

会津の冬 (94)八坂町 1992】は晩年の作。優しい色合いに穏やかな赤と青が安心する風景。別段、風光明媚だとか、特徴的な風景のようには思われない道路標識のある景色。私が幼い頃、祖父母が住む只見に行く道中には、普段見かけない道路標識があることで、その土地に近づいているということを実感していたことを思い出す。なんでもないようだけど、本当はそういう些細な風景が、その場所のイメージを作り出している。そんなことを思った。

展示解説においても、「有名どころは少ない」と紹介される、テーマの場所の選択であるけれど、それぞれの景色は清にとって特別な「あの場所」を連想するモチーフ(構図)だったのだろう。

 

第4期のテーマ【昇華するテーマ、不断の画業】

(9)Tenderness 慈愛

慈愛(H)(I)(J)1983

炎 1961

弥勒菩薩 1950

仏陀 弥勒 1957

ハニワ(1)(2)(3) 1952

ハニワ 1952

秋 会津柳津 福島 1965

 

仏さま、ハニワがメインの展示。作品の年代としては50-70年のものが多いだろうか。

 

1番いいなと思ったのが、【慈愛(H)(I)(J)】の3作品。サイズ感といい、色といい、部屋に置きたいと思ってしまった(無理)。背景の木目の黒、真ん中にはお地蔵様がででーんと描かれる。3つとも表情がそれぞれなのが愛らしい。愛らしさがありつつ、どこか締まっている。どこか深遠なものを感じさせる。これがやはり黒の効果なんだろうか。

 

反対に【炎】はあまり好みではなかった作品。もののシルエットや造形を、すごく洗練した描き方でまとめる人だという印象があるのに、これはなんだか??炎のメラメラという形がどこか幼稚な感じ。ベージュ・朱・黒と、色のまとめ方が変だとは思わないのだけど、なんだろうか。

 

今回展示されている50年代の作品を見ていると、色の組み合わせや構成を見ていて楽しいのは50年代だなあと思う。以前の展示でもハニワの色味が好きだと、ここで書いたけれど、今回も【ハニワ(1)(2)(3)】は好き。ベージュを中心とした色の調和や、色が美しく見える組み合わせというものが意識されているような気がする。素人目には。

 

弥勒菩薩】【仏陀 弥勒】の作品には、後に完成されていく技法の、途中経過のようなものがあるような気がした。黒の単色で、仏様が刷られている。ハンコを押したようなイメージ。すると当然、黒が抜かれている部分には、背景の色が見える。今回の作品では、地が木目調になっていた。無地に押されたスタンプと、木目など、すでにニュアンスを持っている地に押されたスタンプとでは、ちょっと印象が違ってくる。こういうシンプルな作品て、案外ないような気がして逆に新鮮だったし、しかし同時に、面の切り替えを多彩なマチエールで表現する清の作風につながるものがあるような印象もある。

 

マチエールといえば清が意識がしたことだと思うが、【ハニワ】はとても目を惹いた。これは他のものを作風がかなり違っているように思った。清としてはよくなかったんだろうか。個人的には、おもしろいし、すごいと思ったし、もし他には同様な作品があるのならば見てみたい。写実と平坦とが、マチエールの切り替えによって表現されていて、ある種のだまし絵のような雰囲気すらある。掴み所のないような朱色も効果的。一見すると真っ黒のように見える背景が実は濃い緑と濃い紫のツートン。これが朱を引き立てているのだろうか。なんとも、不思議な魅力のある作品だと思った。

 

【秋 会津柳津 福島】の作品は、描かれている和尚さんの形が好き。サグラダ・ファミリアの中にすごく好きな彫刻があるのだが、そのゆるやかな輪郭線や、はっきりとした面の切り替えのある形なのか、ちょっと似たところがあるなと。